チュロス侍の涙
先日、映画『トップガン マーヴェリック』を見に行った。
「おいおい、公開から何日たってると思ってるんだよ笑」と笑われてしまうかもしれないが。 やるか? いいぞ ほらっ かかってこい
実は私は『トップガン』を一度も見たことがなかったのだ。前作を視聴するのに少し時間がかかってしまった為すこし遅れての参加となったのだが、仕方が無い。
IMDb8.5点「最高傑作、落涙必至、大興奮の最新作」と高評価の嵐、そんな傑作を前作を通らずに見るという愚行を劇場の映画オタク達は許してはくれないだろうしな。
もし仮に前作を見ないまま劇場へ行ったのがバレたりしたら、トム・クルーズの「FINISH HIM」というかけ声と共に周りの客からポップコーンの集中砲火を浴び、爆散。スクリーンには私の肉片とFATALITYの文字が映し出されることとなっていただろう。
基本的に映画に行く時は一人でと決めている。一緒に見て感想を語り合うのも楽しいが、それ以上に映画が終わり館内を出る時の謎の気まずさが嫌なのだ。あと映画を見終わってすぐに誰かと会話をする気分にはなれない。どれだけ仲の良い友人だとしても「こいつジャマだなぁ」と思ってしまうし、隙を見て全速ダッシュで振り切って人の少ない公園とかに行きたくなってしまう。自分から誘ったとしてもだ。私は悪くない。
そんなわけで今回も一人で映画館に足を運んだわけだが、一人だとそれはそれでヤツに悩まされることになる。
そう、チュロスだ
私はチュロスが大好きなのだ。だって長くて砂糖がまぶしてあってシナモンの香りがするんだもん。2本買っちゃう。たえられない。
そんなチュロスの何に悩まされるのか。それは私の恥ずかしがりな性格が関係してくる。
シャイなあんちくしょうな私。できるだけ外で注目を浴びたくないのだがチュロスという食べ物はどうにも目立つ。だって長くて砂糖がまぶしてあってシナモンの香りがするんだもん。
そんなものを両手に持っていると完全に見た目が「めちゃくちゃ浮かれてるヤツ」になってしまう。
もし映画を見に来た女子高生の集団がこんな私の姿をネタに爆笑してたり、こっそり撮った写真をクラスのライングループに載せてたりしてたら最悪。私は恥ずかしさのあまり両手に持っているチュロスで腹を掻っ捌いて自害してしまうだろう。
そんなとき、私は一匹のチュロス侍を思い浮かべることで平常心を保っている。
川辺の柳が風に揺れ、橋の上に佇む姿が満月の影になっている。
二本のチュロスを腰に差したチュロス侍、そいつを我が身に宿すのだ。
拙者「お頼み申す」
スタッフ殿「正面右側の2番シアターです」
拙者「かたじけない」
こうして拙者はチュロスと共に、座席に着くことに成功したのでござる。
そして、肝心の『トップガン マーヴェリック』はというと、至高の逸品と言うほか無い。マーヴェリックの孤独が拙者の生き様と重なったのでござる。
何人もの武士を切り捨て感情などとうに捨てたと思っていたが、拙者の頬は涙に濡れたのでござった。
是非みなも劇場で見ていただきたい。そう、チュロスと共に……。